ミシガン大学医学部 先天性心疾患患者のコロナウイルスガイダンス
ミシガン大学医学部が選定性心疾患患者に対するコロナウイルスガイダンスを2020年3月27日に出しています。
個人的に新しく感じた情報について抜粋して書きます。
リンク
Coronavirus Guidance for CHD Patients v2
ハイリスクな人
ミシガン大学先天性心臓センターの見解として書かれています。
- 単心室 (左心低形成 三尖弁閉鎖などを含む)
- 生後12か月未満(最近の中国での研究による)
- 肺高血圧
- 酸素飽和度85%未満 修復していない人
- 他の慢性疾患がある人(肺、腎臓病)
- 移植患者
- 心機能改善のために薬物療法をしている人
- 免疫不全に関連している可能性のある遺伝性疾患患者(ダウン症等)
先天性心疾患が修復され、機能状態が良好な多くの患者は、他の人と同様の注意をしておくことでよい
ACE阻害剤とアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)
ACE阻害剤とアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)の影響について懸念があるそうです。しかし、執筆時点では、服用し続けることを推奨するとなっています。
ACE阻害剤
- リシノプリル(ゼストリル)
- エナラプリル(レニベース)
- カプトプリル(カプトリル)
など
- ロサルタン(ニューロタン)
- バルサルタン(ディオバン)
- カンデサルタン(ブロプレス)
など
ミシガン大学では医学文献と国の推奨事項を注意深く監視しているそうです。
ちなみに、日本高血圧学会では、2020年3月26日時点で、
将来的には新型コロナウイルス感染に対して降圧治療が影響を与えることが明らかになり、治療指針を変更する必要が生じるかもしれません。しかし、現在のところそのような研究結果は発表されておらず、現状の高血圧診療ガイドラインを変更する必要はない
としています。
http://www.jpnsh.jp/topics/669.html
アスピリン
現時点では、アスピリン継続を推奨
通院
ミシガン大学の外来は、緊急の対面評価を必要とする患者のため(だけ)に開いています。今後予定されているすべての患者の予定を確認しており、現時点で来院するか、スケジュールを変更するかについてアドバイスを行います。
通院の大部分をビデオ診療に変更することを計画
フェイスマスクの使用
現在、症状のある人が他人に広がるのを防ぐために推奨
感想
先天性心疾患で使われる薬について、問題提起されていることは知りませんでした。今のところ、継続使用となっています。
すこし注意してみておく必要がありそうです。
万一、普段飲んでいる薬がよくないとなったときに、誰が知らせてくれるのか、これまでに経験がないことなので、わかりません。自己判断はできませんので、事前に確認しておく必要があると思いました。
注意点
この情報を何かの判断材料とされる際には必ず原著に当たってください。状況変化のために、使えない情報となっている可能性があります。
コロナウイルス 先天性心疾患に関する情報公開を見てみる(4月6日時点)
先天性心疾患に関するコロナウイルスの情報公開(日本国内)についてみてみました。
学会
日本小児循環器学会 | 厚生労働省ホームページへのリンク | http://jspccs.jp/ |
日本成人先天性心疾患学会 | 厚生労働省ホームページへのリンク | http://www.jsachd.org/index.html |
日本循環器学会 | 医療者向け:新型コロナウイルス感染症に対応した医療体制についてのQ&Aなど | http://www.j-circ.or.jp/JCS_info_COVID19/index_COVID19.htm |
日本心臓血管外科学会 | 特に情報なし |
日本循環器学会に「心臓病患者の新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」という文書や、リンク集がありました。しかし、学会会員向けということで、医療従事者向けの様です。
病院
長野県立こども病院
電話診療で処方箋を発行してもらえるアナウンスあり
厚生労働省
先天性心疾患患者に向けたメッセージは見当たりません。
いくつかの病院では、
「「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(2020年2月25日)に従い、臨時的に電話診療で処方箋を発行できる」
と書かれているのですが、厚生労働省のコロナウイルスのページでは、どこに書かれているかすぐにはわかりませんでした。
感想
全体的に見て、あまり情報の提供はされていないようです。
私も、電話で処方箋が発行してもらえる可能性があるとはこれを調べるまで知りませんでした。
先天性心疾患で、混雑した電車等に乗って通院するのは不安があると思います。もし、電話で薬を処方してもらえるとしたら、うれしい人も多いのではないでしょうか?
アメリカ心臓協会(AHA)の新型コロナウイルス関連まとめページ
アメリカ心臓協会(AHA)の新型コロナウイルス関連まとめページを見てみました。
リンク
Coronavirus (COVID-19) Resources | American Heart Association
まとめ図
ここに書いた内容は、ホームページ内の一部です。
ポイント
気になったポイントは
疾病の情報だけではなく、生活の変化への対策としてまとめられているという点です。
- 外出に制限があってもできる運動の推奨
- 屋内で運動する工夫
- 他の人と距離を保つなら屋外で運動を勧める
- など
- 材料が限られても、健康によい食事をする方法
- 果物や野菜の缶詰
- 冷凍鶏肉、缶詰のマグロ、鶏肉活用
- など
- ストレス対応の観点の解説
の記述があります。
先天性心疾患については、一般的な注意(手洗い、人と人との距離などと思います)に加えて、服薬を続けることと、調子が悪くなったら、医師への連絡をするようにと書かれています。
また、ある薬がよくないと噂がある場合には、自己判断せずまず医師に相談することとしています。
先天性心疾患に関する記述は他の心臓疾患に比べて、少なめです。
アメリカ心臓協会では、自分に病状がない場合(If you aren’t sick)にはマスクはしないようにと記載しています。理由は、マスクを通してウイルスを取り入れてしまうリスクがあるということと、必要度が低い人がマスクを求めることで、品不足になることを防ぐためとしています。
注意点
著作権の関係上全訳を載せることができません。また、今後状況が変化すると思います。何かの判断材料にされる際は、必ず原著を当たってください。
参考文献
日本循環器学会の日本語訳(一部)
心臓病を持つ患者がコロナウイルスについて知っておくべきこと
(What heart patients should know about coronavirus)
http://www.j-circ.or.jp/JCS_info_COVID19/TR_AHA_News_20200227.pdf
日本の先天性心疾患の患者数は?(統計)
アメリカの先天性心疾患の統計に続いて日本を調べてみます。
ズバリまとまっているところは見つかっていません。そのため、各所から数を寄せ集めました。
厚生労働省患者調査
心臓の先天奇形という分類の患者の統計値です。患者総数としては、2万7千人となっています。
成人先天性心疾患学会
人口動態統計
日本で先天性心疾患が主な原因で平成30年に死亡した人は
524人
ちなみに同じ年にがんで亡くなった人は
38万6千人
でした。
先天性心疾患の患者であっても、他の原因で亡くなる人もいるため、患者数に比べて少なくなっていると思われます。
全国心臓病の子どもを守る会
守る会の会員は、
3,800世帯(2019年)
成人先天性心疾患学会雑誌 第8巻 第2号 42~47 (2019年)より
だそうです。
仮に子供の患者が36万人、大人の患者が50万人、合計86万人で、一人一世帯とすると、先天性心疾患患者の0.44%が会員ということになります。
小児慢性特定疾病登録件数
小児慢性特定疾病のうち心疾患の受給者は、
16,687人(平成26年度)
となっています。
https://www.shouman.jp/research/totalization
アメリカとの比較
アメリカの人口は3.3億人で、日本の人口が1.2億人です。
アメリカの成人先天性心疾患の患者が140万人となっていましたので、日本の50万人は人口比で同程度に見えるのですが、どちらも実際に数えた数ではないようです。
アメリカと同じように、日本でも子供の心疾患患者よりも成人の方が多くなっており、今後もさらに増える見込みとされています。
先天性心疾患の統計 (アメリカCDCから)
アメリカCDCに先天性心疾患の統計が公開されています。
リンク
Data and Statistics on Congenital Heart Defects | CDC
まとめ図
先天性心疾患の患者数は実数ではなく、カナダの統計値を使った推計値です。
CDCとは?
アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)のことです。アメリカの健康に関する国家機関です。
感想
アメリカの状況がまとめられています。少し古めのデータもあります。医療技術が進むことによって、良くなる人が増えていると思われるので、統計値もよいほうに変わっていることが予想されます。
発生率は出生数の1%とのことなので、日本でよく言われていることと変わらないようです。
論文:先天性心疾患患者は認知症リスクが高い?
先天性心疾患患者は認知症になるリスクが高いという論文を見つけました。
論文
Risk of Dementia in Adults With Congenital Heart Disease Population-Based Cohort Study
Carina N. Bagge 他
Circulation. 2018;137:1912–1920
2018年2月12日
リンク
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.117.029686
まとめ図
デンマークのデータ分析の結果です。
先天性心疾患ありとなしで1000人当たりの罹患率を比較すると、すべての年代で先天性心疾患ありの方が高かったという結果です。
先天性心疾患患者のうち80歳までに認知症になったのは4%でした。
年代別だけではなく、他の分類についても検討しています。
様々な要因(例えば、今認知症にかかっている人は、現在に比べて、先天性心疾患の医療技術が低いと考えられるので、今生まれた子供が同じ結果になるとは限らないなど)があるので、更なる研究が必要とされています。
感想
この論文を見るまでは、認知症リスクまで考えが回っていませんでした。
このような形で様々なリスクが判明し、それに対して子供のときから予防ができるようになるとすると、とても有益だと思います。
注意点
この情報をもとに何かの判断をされるときには、必ず原著を当たってください。
先天性心疾患患者の災害への備えは? ver.1
災害多発が予想されています。
慢性病患者は、通常の生活から変わると困ることが多数あると思います。
先天性心疾患患者の場合、事前に準備しておけるものを考えてみました。
まとめ図
想定したリスク
- 薬切れ
- 停電(酸素切れ)
- 脱水
- 栄養バランス崩れによる体調不良
- 粉塵
- 虫歯
今回考慮していないがありうるリスク
- 建物、家財に挟まれる
- 避難所にいられない
- ストレスによる体調不良
- 感染症
- 交通のマヒ 通院手段がなくなる
留意点
個人で電気の準備ができるのは、一部の人だと思います。東日本大震災の時には、酸素供給企業の方が活躍してくださったようです。(参考文献5)
いざという時にどうなるのか確認しておく必要があると思います。
私は、実際に大規模災害で何日もインフラが止まった経験はありません。文献のみを参考に上記図は作成しています。
参考文献
1. 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン
(2012‒2013 年度合同研究班報告)
2014 年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2014_shimokawa_h.pdf
患者に対して2 週間分の薬をつねに携帯するよう指導することや,病歴のわかる患者手帳やお薬手帳を作成して患者に持ち歩くよう指導する
と書かれています。津波や豪雨で緊急避難して、後から取り出せない場合を想定していると思います。
2週間分の薬を常に持ち歩くのは、ちょっと難しいかもしれませんが、書類だけならできそうです。
2.
東日本大震災の時の薬の状況について説明があります。
また、以下の記載がありました。
大規模災害などで受診が困難な場合、お薬手帳でいつも飲んでいる薬を確認できれば、処方箋なしでも薬局で薬をお渡しできる特例が認められることがあります。
3.
各団体に対して東日本大震災の時に行った聞き取りへのリンクがあります。
4.
食料の備蓄方法について書かれています。
5.
帝人在宅医療株式会社仙台支店仙台営業所が、東日本大震災の時にどのように医療用酸素の供給を行ったかのレポートです。