先天性心疾患の神経発達とその支援
先天性心疾患の知的発達、知能面の疾患について興味があり調べています。傾向と支援活動の先進事例を知りたいと思い、論文を読みました。検査方法、支援方法ともに発展途上とされていました。
論文情報
先天性心疾患の子供と大人の神経発達における「大きな問題」
‘Big issues’ in neurodevelopment for children and adults with congenital heart disease
Charlotte E Verrall(The Children’s Hospital at Westmead, Sydney, Australia)他著
BMJ journals openheart
リンク
‘Big issues’ in neurodevelopment for children and adults with congenital heart disease | Open Heart
まとめ
先天性心疾患者は神経発達の遅れがある割合が高め
- 作業遅延
- 対話の困難
- 多動・注意の問題
- 行動障害
- 実行障害
- 学習困難
- 知的障害
- 全般的発達遅延
1000を超える遺伝子が先天性心疾患の発達遅延に関係している可能性がある
神経発達の遅れの原因のうち、変更できるものは何か?
(適切に変更することで影響を少なくしたい)
- 手術による影響はあるが、5%〜8%しか説明できない
- 低酸素の影響はある
- 母体酸素療法が考えられている
遺伝的な問題が発達の問題の原因としても、教育等で改善可能か?
←その可能性はある
解ってないこと
- 幼児期の結果から後の障害を予測すること
- 発達の遅れの原因
- どこまで改善できるか?
感想
知的面の発達が遅れる場合の原因と対策については、まだまだ分かってないことが多いようです。誕生前後の検査による問題の発見、実行する対策両面ともに、まだ確立していないとしています。
ある時点で発達が遅れていても、取り戻せる可能性があるとされているのは、希望が持てます。様々なノウハウが蓄積してより効果的な支援方法が実現してほしいです。
ケアやトレーニングによって、自立した生活に近付いたり、将来の知力低下(認知症リスク等)が抑えられるようになったりしてほしいです。
先天性心疾患児の親の心理・行動傾向のメタ分析
先天性心疾患の子供が生まれた時の親の心理・行動について、複数の論文を合わせて分析した論文がありました。22の研究をまとめた論文です。
(子供が生まれる前から乳児の間までを対象としています。)
この論文をもとに、子供が生まれてから退院するまでの親の役割と心理変化、問題への対応事例という形でまとめてみました。(直訳ではありません)
論文情報
Coping in Parents of Children with Congenital Heart Disease: A Systematic Review and Meta-synthesis
Midori R. Lumsden他著
Journal of Child and Family Studies volume 28(2019), pp1736–1753
リンク
まとめ
米国(10論文)、カナダ(6)、オーストラリア(2)、英国(1)、日本(1)、スウェーデン(1)、台湾(1)の論文をまとめている
各事例についてまとめている(統計的な分析ではない)
患者を家族全体として考慮する必要がある
感想
子供が小さい間までの親に起こることについて、どのように親が対処しているかをピックアップしています。多くが親自身の心理的な問題にどう対処するかということについての話になっています。
心的ストレスに対応するのにも正反対の行動をとる事例もあり、個人差が大きいようです。
生まれる前は子供はまだいないので、親の問題だけですし、生まれてしばらくは子供は病院にいるので、親が出来ることは限られ、親の心理的な問題への対応が多くを占めるのはわかるように思います。
もう少し成長してくると、状況が変わってくると思います。状態の改善に親が出来ることがでてきますし、子供は、家庭の中での存在から、社会の中の子供になってきます。
ここでの問題の一部は、国ごとに違っているように思います。日本では、保育園や幼稚園に入るのも容易でない場合もありますし、学校の勉強についての問題も出てきます。こちらの問題は具体的であるため、対処方法もノウハウ的であり、対応しやすいかもしれません。
事例を取り上げた論文のため、まとめるのが難しかったため、時間経過ごとに整理してみました。そのためこの論文のまとめ方とは違うまとめ方になっています。
雑誌情報
Journal of Child and Family Studiesは、子供、青年、その家族の健康と幸福に関連する話題に関する査読付き論文誌です。
インパクトファクターは1.780(2020年)です。
先天性心疾患の学業成績(米ノースカロライナの調査)
先天性心疾患の知的面の発達の問題が気になります。先天性心疾患は軽度であっても、学業成績が基準以下の人の割合は、重度の人と変わらない。この人に支援が行き届いていない可能性があるという論文がありました。
論文情報
Academic Outcomes in Children With Congenital Heart Defects
A Population-Based Cohort Study
リンク
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCOUTCOMES.116.003074
まとめ
過去研究との違い
- 過去の研究は重度の先天性心疾患患者対象か、手間のかかる検査を使っていた
- ノースカロライナ州の出生統計を使うことで、多数のデータを集められる
- ノースカロライナ州では、3年生から8年生までのすべての公立学校の生徒に、読解と数学の学年末テストが実施
-
過去の認識
過去は軽度または中等度の心疾患の子供の大多数は発達障害を持っていないと考えられてきた
対象者
- 1998年から2003年に生まれた先天性心疾患の子供2807人と、それ以外の子供6355人の学業成績を比較
- 3年生時を対象にしている
- 子供は公立学校に通う人のみ
- 染色体異常のある人は除外
- 先天性心疾患のうち463人(16.5%)は重度であり、2344は重度でなかった
結果
- 先天性心疾患者はそれ以外よりも学業成績が低い人の割合が多い
- 3年生に留年する人の割合は変わらなかった
- 注意)アメリカの多くの州では、4年生になるためには、ある程度の読みが出来ないといけない法律があるそうです。
- 心疾患が軽度であっても、学業成績に影響がある可能性がある。
- 軽度の人は、追加の教育サービスから漏れている場合があるので対策が必要
学業成績が悪くなる理由は現在不明のまま
- 手術の影響
- 遺伝子の問題
- 酸素不足
- 麻酔
- 心臓バイパスなど
重度の先天性心疾患の定義
以下の症状があること、
大動脈縮窄症、右旋性大血管転位、両大血管右室起始、エプスタイン奇形、左心低形成、大動脈弓離断、肺動脈弁閉鎖症、単心室、ファロー四徴症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹症
感想
先天性心疾患者の学業成績が低い割合が高いという研究は多いです。この論文では、軽度の心疾患者も、学業成績不振の割合は重度と大差ないのに、支援を受けている人が少ないということがポイントのようです。
支援を受けるかどうかは、心疾患によらず学業成績で決めていれば、支援を受ける人の割合は同じになりそうにも思います。
おそらく、重度の心疾患者には、支援への特別な道筋があるということなのでしょう。
日本では、心疾患患者への特別な知的支援はあまり聞かないような気がします。早い段階から知能面の成長支援をすることで、成人後の自立能力を高める活動が欲しいと思います。
新型コロナウイルスワクチンの優先順位と先天性心疾患
先天性心疾患患者が新型コロナウイルスのワクチンを受けるべきなのか、いつ受けるのかなどどのようになっているのか気になります。
ワクチンの優先順位はそれぞれの重症化リスクと関連があると思います。
2021年1月上旬の日米英の状況を調べてみました。
まとめ
- 16歳以下の子供は基礎疾患があっても優先順位は高くない
- ダウン症の重症化リスクが高いことが考慮されている
- 無脾症のリスクが記述されている(英)
- 先天性心疾患の細かい分類ごとのリスクは書かれていない・心不全と記載(米、英)
日本
ハイリスク者(先天性心疾患関連)
厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会)|厚生労働省
第43回(2020年12月25日)にて、各学会からの意見を公開
日本小児科学会の見解として
小児に対する新型コロナウイルスワクチンの有効性、安全性に関するエビデンスがないため、小児への接種は慎重に検討すべき=すぐには接種しない??
先天性心疾患で優先すべき症状
- 症状(チアノーゼ、心不全)がある、または治療ないし運動制限を受けている
- 不整脈、肺高血圧がある、または治療ないし運動制限を受けている
- 半年以内に心臓手術を予定している、または過去3か月以内に心臓手術を受けた
- 複雑型先天性心疾患(心内修復術前)ないしフォンタン手術後
- 染色体異常、先天異常症候群、全身合併症がある
となっています。
アメリカ CDC
When Vaccine is Limited, Who Gets Vaccinated First? | CDC
ワクチン接種の順序
1a:医療従事者と介護施設の居住者
1b:最前線のエッセンシャルワーカー(消防士、警察、青果店員、教育など)と75歳以上の人々
1c:65〜74歳の人々、および基礎疾患のある16〜64歳の人々と以下の労働者(交通、運輸、飲食、住宅建設、通信、エネルギー、法律等)
となっており、16歳未満の人は基礎疾患があっても最優先すべきとはされてないようです。
ハイリスク者
ハイリスクの基礎疾患にダウン症が追加されました(2020 12 23)。
心臓病としては
- 心不全
- 冠動脈疾患
- 心筋症
- 肺高血圧症
がハイリスクとして例示されています。
Certain Medical Conditions and Risk for Severe COVID-19 Illness | CDC
イギリス (予防接種に関する合同委員会 JCVI)
ワクチン接種順序リスト
- 高齢者とその介護者のためのケアホームの居住者
- 80歳以上のすべての人々と最前線の医療および社会福祉従事者
- 75歳以上のすべての人
- 70歳以上のすべての人および臨床的に非常に脆弱な個人[脚注1]
- 65歳以上のすべての人
- 16歳[脚注2]から64歳までのすべての個人で、深刻な病気や死亡のリスクが高い根本的な健康状態にある人
以下省略
16歳未満の子供
- 予防接種のデータがない
- 住宅でのケアを必要とする重度の神経障害のある年長の子供など、曝露のリスクが非常に高く深刻な結果をもたらす子供だけに、ファイザー-BioNTechまたはアストラゼネカワクチンのいずれかによるワクチン接種を提供すべきであるとアドバイス
基礎となる健康状態のある人
- 基礎となる健康状態のない人と比較した場合、基礎となる健康状態のある人の絶対的なリスク増加は、65歳以上の人のリスク増加よりも一般的に低い
- 65歳以上の人々にワクチン接種を提供し、続いて16歳以上の臨床リスクグループの人々にワクチン接種を提供することを推奨
ハイリスク者には以下を含む
など
感想
ワクチンの優先順位という観点では、あまり細かく分類する必要もないのか、先天性心疾患の中での細かい順位付けはないようです。
現状では子供のリスクは低めということのようです。
脾臓のリスクについては、今回初めて知りました。
フォンタンの子供の体組成と運動能力
フォンタンの子供の体についての論文をよみました。Journal of the American Heart Associationに掲載されています。肥満と低体重両方があります。全体としてみれば、筋肉などが少ない傾向です。
論文情報
Body Composition and Exercise Performance in Youth With a Fontan Circulation: A Bio‐Impedance Based Study
(フォンタンの若者の体組成と運動能力:生体インピーダンスに基づく研究)
Adam W. Powell他著
Journal of the American Heart Association. 2020
リンク
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.120.018345
まとめ
フォンタンの子供における体組成の影響についてはほとんど知られていない
体組成を調べるときに、これまでは
二重エネルギーX線吸収測定法を使っていた。
本論文では、生体電気インピーダンス分析(InBody370)を使った。
両者は同様の結果を示す。
フォンタン循環は、筋肉減少と脂肪過多と関連がある
筋肉量が多いほど、運動能力が向上する
フォンタン手術後に後期合併症を患った患者は、骨格筋量が少なく、体脂肪率が高い
- 脂肪が約14%高い
- 筋肉量が約15%少ない
- 低身長
- 骨格筋量少
- 被験者の1/4が肥満
- 被験者の1/3が座りがちな生活習慣
感想
フォンタン者の体組成の分析は見たことあるような気がしていましたが、成人中心で、若年者は行われていないという主張です。
個人的には、フォンタン者は、あまり太れない印象を持っていました。実際、低体重の人も15%程度あります。
しかし、論文では、肥満についての問題提起が多いように思います。運動不足傾向の人も多いのかもしれません。フォンタン者といっても、人それぞれで事情が異なっているということがわかります。フォンタンだからより脂肪がつきやすいのかどうかはわかりませんでした。
子供のうちに運動習慣をつけ、基礎体力や筋肉をつけていくことが必要に思います。
注意点
この論文の比較対象は、何らかの理由で病院でCPETを行った人であり、一般的な集団との比較にはなっていないことに注意が必要です。
fontanで運動能力が良い人の特徴
先天性心疾患の体調管理に興味があります。
フォンタン患者のうち運動能力が高い人と低い人の違いについて調べた論文を読みました。やはり年齢との関係が強いですが、ビタミンDが十分かどうかなども関係すると書かれています。
論文情報
End‐Organ Function and Exercise Performance in Patients With Fontan Circulation: What Characterizes the High Performers?
Scott J. Weinreb他著
Journal of the American Heart Association. 2020;9
リンク
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.120.016850
まとめ
臨床的特徴とピークVo2との関連を調査
2011年から2018年の間
被験者
- フィラデルフィア小児病院の外来患者(歩行可能)265人
- 年齢は5.5歳から48歳(中央値は12.8歳)
- 37%は女性
- 開窓フォンタン81%
ピークVO2が高い人の特徴
- 若い
- 女性
- 肥満でない
- ビタミンDが十分
- ヘモグロビンレベルが低い
- 総リンパ球数が高い
- 血小板数が多い
- 健康な肝臓
相関がなかったこと
- 心室の形
- 手術をした時期
- フォンタンの手術法の違い
感想
個人的には、運動能力とビタミンDの関係について、書かれている論文は初めて読みました。ヘモグロビン数が少ない方がよいのは素人考えだと逆のようにも思えますが、体の良くない状況をどうにかしようと反応した結果ということだと思います。
これから、患者の状況と行動様式の関係が少しずつ明らかになり、より好ましい活動が自信をもってできるようになればよいと思います。
COVIDによる変化をより良い診療につなげる
コロナで起こった医療の変化を将来の理想的な医療につなげようという論文を読みました。
論文情報
Adult congenital heart care in the COVID-19 era, and beyond: A call for action
Michael A. Gatzoulis他著
International Journal of Cardiology Congenital Heart Disease Volume 1, July 2020
リンク
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666668520300021
まとめ
型にはまった医療から抜け出して、患者個人に合わせた医療、全員に公平な医療に作り替える
感想
コロナによって強制的に医療が変化していますが、そのうちの一部には、将来やろうと思っていたことを前倒しにやっていることもあると思います。このことによって、医療の発展が加速する可能性があります。
先天性心疾患は患者によって違いが大きいので、自分に合わせた医療が実現すれば、負担を減らし、よりよい生活が実現できると思います。また、若いころからの生活習慣の改善など、患者が自分で気を付けることで、将来を改善できることがたくさんありそうですが、現状では、なにをどうやって良いのか、よくわからない状況だと思います。
これを改善するために、情報を患者に渡せば、患者本人も巻き込んで、病院での治療や検査とライフスタイルの合わせ技で、QoLを上げることが出来るのではないかと期待しています。