稲井 慶著 フォンタン術後成人患者の管理(日本小児循環器学会雑誌 2017)

先天性心疾患の運動に関する論文を読んでいます。

 

今回の論文

フォンタン術後成人患者の管理

日本小児循環器学会雑誌

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(6): 411-422 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.411

著者:稲井 慶

著者所属:東京女子医科大学循環器小児科

発行日:2017年11月1日

 

jpccs.jp

 感想

フォンタン患者が将来、どのような問題が起こるかを網羅的に取り上げてあるので、全体をつかむために有効な論文でした。

確立された方法がないという記述が多数出てきます。まだまだ、これから検証する必要があるということだと思います。

運動に関しても、「効果はあると思うが、どこまでやってよいのかは決められない」といった感じの記述です。有酸素運動、筋トレ、呼吸筋トレーニングについて記載されています。

 

 内容要約

概要

フォンタン手術を行って時間が経つと、全身の色々なところに問題が起こる。

患者との情報共有と管理戦略をたてる必要がある

論文内容の非医療者視点でのピックアップ

内容を以下にまとめます。

心不全

  • 術後10年以上経過した患者51例の約30%で心機能の低下
  • フォンタン術後患者の心不全治療は確立された基準はない

不整脈

  • 術後経年的に増加
  • 20年で少なくとも50%の症例で加療を要する不整脈を生じる

血栓塞栓症

  • 抗凝固・抗血栓療法についてはいまだに一致した標準治療がない
  • 女子医大では、予防措置として,術後1年間はワルファリンによる抗凝固を全員に行っているが,その後特定要素がなければ一旦は中止
  • そのうえで術後10~15年あたりをめどにアスピリンを開始
  • 脱水を避ける(起床時の水分摂取)
  • 状態が許す限りWalkingなど適切な運動を勧奨

 

肝線維症

  • 約半数近くの患者が術後30年で肝硬変になっている
  • まず生活指導:適切なカロリー,たんぱく質摂取やビタミン補充などの食事指導
  • 肝硬変の進行度によっては労務の軽減も考慮されなければならない

蛋白漏出性胃腸症

  • フォンタン術後遠隔期の4~13%に発症し,経年的に増加する

内分泌・代謝

  • 成人先天性心疾患患者の93%に,ビタミンD欠乏または二次性副甲状腺機能低下が認められた
  • ホルモン異常は慢性腎疾患や骨粗しょう症の早期発症にも関与
  • 大内らは,フォンタン患者に75gOGTTを施行すると40%で耐糖能障害,15%で糖尿病,これらの患者では心イベントの発生率が高いことを報告

妊娠・出産

  • 管理については標準化された指針は確立されてない
  • 満期に至る前に児の娩出を図らなければならなくなる頻度が高く,児に関しても2,000 gないしそれ以下の低出生体重児となることが多い.
  • 帝王切開が選択される場合も通常より高い(50~70%)
  • 児の心疾患発症率は通常妊娠より高くなることは確認されていない

運動

  • フォンタン患者に運動を勧めるかどうかは確立されていない
  • 一定の基準にもとづいた処方はなく,各主治医の判断に委ねられている
  • 想定される効果
    • 筋肉は第二の心臓ともいわれ,特に肺側心室を持たないフォンタン循環においては,正常心の運動時血行動態と比較してもより重要
    • 骨格筋肉量は最高酸素摂取量などの運動耐容能指標を規定し,心疾患の予後と深く関連
    • 心臓リハビリテーションによる筋肉量の維持や血管内皮機能の改善がフォンタン患者のQOLや予後の改善にも資するとの認識
  • 問題発生の可能性
    • 運動による自律神経の活性化や血中アドレナリン値の上昇が不整脈を惹起する方向に作用する可能性
    • 運動時の中心静脈圧の上昇が肝臓をはじめとした内臓のうっ血や線維化に促進的に働く可能性
    • どこまでの運動が適切かはいまだに答えが出せない
    • デメリットの部分も勘案すれば競技的な活動への参加は勧めない
  • 有酸素運動、筋トレ、呼吸筋トレーニングを解説
    • 有酸素運動では,心肺運動負荷試験を行い無酸素閾値レベルに達する30~60秒前の心拍数をめどとした運動を週1~3回程度の範囲で勧めている.
    • 歩行や速歩などで無酸素閾値を超えることのない有酸素運動を行うことはメリットの部分が大きいのではないかと考えている.
    • この点に関してはいずれ介入研究を行って明らかにしていく必要がある
    • ウェイトトレーニングなどのレジスタンス運動については,息ごらえを行わないように注意しながら積極的に取り組むように指導
    • レジスタンス運動の有効性については小規模ではあるがいくつかの報告が存在
    • 呼吸筋トレーニングも有効である可能性あり
    • フォンタン循環では筋肉ポンプとともに胸腔内圧の変化が肺血流の増加に寄与しており,呼吸筋トレーニングは一定の有効性をもつ可能性が考えられるため,今後実証していく課題であると考えている.

注意点

何かの判断材料とされる際は必ず原著に当たってください。