フォンタン患者が運動すると肝機能に悪影響がある?? その1

2016年から2017年にかけて埼玉医科大学総合医療センター 小児循環器科のグループからフォンタン患者の運動の肝機能などへの悪影響に関する学会発表が行われています。

気になる内容なのでまとめてみます。

学会発表の予稿のみで論文が見つかっていません。そのため、情報が少なく不明点が多数あります。したがって、内容の理解が十分ではありませんのでご注意ください。

 

文献情報

以下の2件の発表が同じ内容です。

発表1

the American Heart Association's 2017 Scientific Sessions and Resuscitation Science Symposium

 Quality and Quantity of Daily Life Activity and Elevation of Central Venous Pressure  During Physical Activity are Important Determinants of Hepatic Congestion in Patients With Fontan Circulation

日常生活活動の質と量、および身体活動中の中心静脈圧の上昇は、フォンタン循環患者の肝うっ血の重要な決定要因

   Akiko Yana他 Circulation. 2017;136:A19225

    リンク

発表2

第53回日本小児循環器学会総会・学術集会
  Fontan患者の肝機能に影響を与える日常生活の特徴~動的CVPとの関連~

   簗 明子他

   リンク

 

まとめ

 

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活動量と肝機能の関係解析結果
  • Fontan患者23人(平均8.4歳)
  • 2週間高精度のポータブル加速度計(Actical)をつけて活動エネルギー消費(AEE)を計算
  • 活動量多だが肝機能良好者は、運動中の中心静脈圧が低い
  • 活動量少で肝機能悪者は中から激しい活動(3Mets超)が多く、休日の活動が多い
  • 活動多者の肝機能と活動量の分析、活動量少者の肝機能と中心静脈圧の分析は記載がありません

 ちなみに、3Mets 超の運動とは、

  • 階段を降りる 3.5Mets
  • 散歩 3.5Mets
  • 歩く(4.0km/時)、平らで固い地面 3.0Mets

  とほとんどのスポーツが含まれるレベルの運動です。

 仮に、3Mets超の運動が問題だとすると、高低差のある道路で学校に歩いて通学したり、体育の授業(準備運動レベル)を受けたりすることもダメになってしまいます。(文中では、3Mets以上の運動が禁止だとは書かれていません)

疑問点

 限られた概要文の情報からなので、様々な疑問が浮かんできました。

分析に関する疑問

「活動量と肝機能悪化」の因果関係の証明になっていないように感じます。(短い概要に書かれている内容だけから判断して)

 活動が多くて肝機能が悪い患者に、活動を減らす様に指導して、実際に減らした人の肝機能が改善したかを確認するなど、さらに進んだ分析が必要だと思います。

 運動の影響を見るときに、最初に活動量AEEという「運動の結果」で2分類してその後の分析をしていることで、結論の正しさがわかりにくくなっていると思います。

 

実験の枠組みに関する疑問

被験者が小学校低学年中心(平均8.4歳)である影響が気になります。

 被験者の年齢の分布については説明がありません。

23人と小規模であることも、気になります。

 

感想

 口頭発表のみの場合には、概要しか掲載されていないため、詳しい内容がわかりません。また、この文書は、残念ながら、概要の書き方もあまり親切ではありません。

全世界的に、先天性心疾患の運動を勧める流れになっています。だからこそ、運動のリスクを明確にしていく必要があります。それによって、個人個人の事情に合わせた、運動プログラムが作れるようになって、より良い生活が送れるようになると思います。そういう意味で、この研究は重要な研究だと考えています。

 追加の検証報告を探していきたいと思います。

 

その他の類似発表のまとめ

埼玉医大のフォンタン患者の運動のリスクに関する発表について、全体をまとめておきます。

2016年から2017年にかけて集中的に類似のテーマで6回の学会発表を行っています。

  • AHA Scientific Sessions and Resuscitation Science Symposium 2016予稿 2件
  • AHA Scientific Sessions and Resuscitation Science Symposium 2017予稿 2件
  • 第53回日本小児循環器学会総会・学術集会(2017年7月) 2件

このうち日本循環器学会の1件とAHA2017の1件は同じ内容です。すなわち5件の発表が見つかりました。

この時期にまとめて日米での学会発表が行われていますが、それ以降の研究成果公表は見つかっていません。また、口頭発表のみで、論文化されたものは見つかっていません。