軽微な先天性心疾患でも長期的には心臓の問題が発生するリスクが高い?

軽微な先天性心疾患の患者が年を取った場合に、心臓の問題が発生するリスクが高いという論文を見つけました。(2019年2月28日公開)

論文

タイトル等

Substantial Cardiovascular Morbidity in Adults With Lower-Complexity Congenital Heart Disease

Circulation. 2019;139:1889–1899

著者

Priyanka Saha ら

スタンフォードの研究チームの論文です。

まとめ図

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軽微な先天性心疾患の患者も長期的には心臓異常のリスクが高い

感想

いわゆる根治術を行ったり、自然に穴がふさがったりして、問題のない心臓になったとしても、将来的には高リスクの可能性があるということです。

ただし、まだ、原因が不明ということなので、軽微な先天性心疾患だった人全員がリスクが高いと言い切れるわけではありません。

本人も治ったとして意識してない場合もあるのではないでしょうか?

そのような人も、心疾患のリスクを上げる喫煙をせず、肥満、高血圧に気を付けることが大事だと思います。(もちろんそれ以外の人も)

 

注意点

 本内容を参考に何かの判断に使う際には必ず原著に当たってください

 

リンク

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.118.037064

新医療 臨床研究紹介 (筑波大学付属病院心臓血管外科)

筑波大学付属病院心臓血管外科では、臨床研究について情報公開しています。

いくつかピックアップしてみたいと思います。

 

リンク

tsukuba-heart.com

臨床研究とは?

人に対して行う医学的な研究のことです。

目的は以下の通りです。

病気の予防・診断・治療方法の改善

病気の原因の解明

患者の生活の質の向上

など

ピックアップ

 コンピューター流体シミュレーションによる 術後遠隔期のフォンタン循環の血流解析の検討

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フォンタン患者の血流の計算機シミュレーション

個人的に、大学で流体力学を専攻していました。(卒業後全くやってませんので、忘れてしまいました)フォンタン手術をする際に、接続の良しあしによって血流の抵抗が変わり、将来の状況に影響するのではないかと思っていました。計算シミュレーションを活用して、接続法や、人工血管の形状などが最適化されれば、素晴らしいことです。すでに研究もされていますので、調査していきたいと思っています。

 

心臓手術をうける学童期・思春期患児に対する ハートチームによるプリパレーション支援効果の検討

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プリパレーションの図

インフォームドコンセントは親に対して行うのに対して、インフォームド アセントという子供に対して行う説明もあるということを初めて知りました。

手術を受ける子供も手術についてよく知っているべきであると思います。

一方で、手術の様子をイメージするのはちょっと怖いことで、心理的な負担もあります。手術を行う入院中という直前にやっちゃって大丈夫なのかなと少し心配になります。それ故、適切な実施方法を見つけていくこの研究は期待できる研究だと思いました。

注意事項

この情報をもとに何かの判断をされる際には、必ず元情報にアクセスしてご確認ください。

 

参考文献

筑波大学付属病院心臓血管外科ホームページ

vol.1 臨床研究(試験)とは?|臨床研究について【臨床研究情報ポータルサイト】

 

フリーイラスト

北海道心臓協会フリーイラスト集

病院・医療 フリーイラスト素材-10

アメリカの医療組織研究 研究を資金で支援する The Children's Heart Foundation

アメリカにある先天性心疾患の患者を対象とした組織について調べています。

今回は、The Children's Heart Foundationです。

 リンク

www.childrensheartfoundation.org

目的

先天性心疾患の研究への資金提供

最も有望な研究に資金を提供することにより、先天性心疾患の診断、治療、および予防を促進

累計1300万ドル(=14億円)以上のCHD研究と科学的協力に資金を提供

まとめ図

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活動まとめ図

注:イベントはcongenital Heart Walksの他にもあります。

感想

(小児)先天性心疾患に特化して研究を支援する組織があり、それが個人から始まっているということに少し驚きました。

実際に研究に資金提供している金額よりも、専門家費用の方が高いのは少し気になります。

より大きな動きを生むために、お金を集める方法として非常に参考になるとおもいます。

 


ホームページなどからの情報まとめ

歴史

 1996年先天性心疾患で亡くなった子供の両親が設立

資金の使い道

  単位ドル

研究資金支援 529,239
公共への教育 29,627
給与、税金など 327,954
保険 11,657
オフィス 21,720
専門家謝金 626,984

など

参考文献

資料の権利

 図等の複写などは個人的利用のみ許可

 転載・複製許可は要連絡

 

 

先天性心疾患の重症度診断に深層学習を使うと医者よりも性能がよい?(三重大学)

三重大学から、先天的に心臓の左右間の壁に穴が開いている症例の深刻度をX線画像から判定するタスクに深層学習を使った結果が発表されています。

(TechOnNatureに書いた内容をこちらにも転記したものです)

リンク

www.ncbi.nlm.nih.gov

個人的理解

X線画像から疾患の深刻度を判別する目的です。深刻度は、肺体血流比で定義しているようです。

X線画像から、カテーテルで判別した結果を教師として転移学習して求めています。(肺体血流比を求めているのか、深刻か非深刻かの2値判定なのかは不明)

 診断一致率は、3人の認定小児心臓専門医と比較しています。

カテーテル実施の1か月前以内にX線撮影している患者のデータを使っています。(657人の患者に対して行われた1031件)そのうち100カテーテル(78人分)を検証用データとしてランダムサンプリングしています。

 

人の結果が100問中49正解に対して、この処理の結果は100問中64正解で処理の方がうわまったという結果です。

 

肺体血流比とは、心臓から肺に行く血液と、体に行く血液の比です。

心臓に穴が開いてない場合、肺に行った血液が、心臓に帰ってきて、そのまま体に行くということで一本道で連続であるため、両者は同量になって肺体血流比は1になります。

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中隔欠損でない場合の血液の流れ

 

左右間に穴が開いていると、本来体に行くべき血が肺の方に流れて行ってしまうので、肺体血流比は1より大きくなるようです。

 

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中隔欠損がある場合の血液の流れ

 

Fick-derived pulmonary to systemic flow ratio:カテーテル検査で求めた肺体血流比

理解が難しかった点

X線から推定するのがベストか?

肺体血流比をX線画像から計測するのが、実用上一番よい方法なのかはよくわかりませんでした。心臓の超音波でも計測できるとの報告もあるようです。

超音波画像は、学習するのが難しそうなので、X線にしたという可能性もあるかもしれません。

人間がよくやっている作業なのか?

医者がX線からの肺体血流比計測をよくやっているのかがわかっていません。X線だけで心臓超音波をやらないというのはあまりなさそうに思えます。このタスクに限定すれば人よりも高精度といえると思いますが、人があまりやってない作業だと、比較はフェアではないかもしれません。

いずれにしても、人と機械が競争することにはあまり意味はなく、ある目的があったときに、機械が得意な作業を採用して高精度に達成可能ならば、有意義だと思います。

アメリカの医療組織研究 患者への情報提供 Conquering CHD (The Pediatric Congenital Heart Association 小児先天性心臓協会)

アメリカにある先天性心疾患の患者を対象とした組織について調べています。

今回は、Conquering CHD(The Pediatric Congenital Heart Association 小児先天性心臓協会)です。

リンク

www.conqueringchd.org

目的

Conquering CHDの使命は、「先天性心疾患を克服する」ことです。

患者、保護者、医療提供者、パートナー組織とのコラボレーションによって、

先天性心疾患の教育、サポート、研究、知識の質を改善します。

まとめ図

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PCHAの活動のまとめ

感想

このような組織は日本にないように思います。

これまでも、病気の知識は本や、講演会で提供されていました。患者団体での人と人との対面での交流も行われていました。

これまでは、情報の広がる範囲にどうしても限界があったと思います。

webやマルチメディアを活用して、情報交換範囲を拡大し、わかりやすく伝えることができるインフラが整っています。

PCHAをみると、困っている人に情報提供できる可能性の拡大を感じることができます。

患者と家族は、どのように病院を選んだらよいのか、入院したときにどんな質問をすればよいのか、大人になっても、毎日気を付けることはなにか、就職をどうするか等、疑問だらけだと思います。

webにはwebの問題も多々ありますが、うまく使うことで、より良い生活につなげられればと思います。


ホームページなどからの情報まとめ

歴史

2013年に設立

 

活動内容

知識を与える

知識は力

最高品質のケアを達成するために必要な教育リソースを患者と家族に提供することにより、患者と家族の能力を高める

プログラムは、患者と保護者自身に届くように設計されていると同時に、より広範な患者ケアシステムを改善し、患者ケアの文化を促進

声をかける

先天性心疾患に関連する重大な公衆衛生の負担を政策立案者に知らせるために、CHDコミュニティの声を増幅しようとしています。

強固な草の根基盤を構築し、この声を活用して、心臓病コミュニティ全体に影響を与える主要な政策変更を前進させるために、立法者、管理者、政府機関、およびその他の主要な利害関係者に通知します。

患者と家族に、自分のケアで自分自身を擁護することを教えます。

希望を与える

連邦政府機関、医療専門家、研究者と協力して、患者中心の研究を推進

 プロトコルの開発と実装から情報の普及まで、患者の研究への関与を促進

 先天性心疾患の理解のギャップに対処する資金調達メカニズムを提唱

支部プログラムは、1:1のサポート、ケアパッケージの配布、教材提供などで、直接の支援と教育を通じて家族に希望を与えます。

私たちは患者、家族、医療専門家と直接仕事をしています。

資金の使い道

2018年

患者と家族の教育とサポート $75,825
公共政策教育 $41,558
パブリックリポート $24,488
資金調達 $194,514
支部設立 $28,695
管理費用 $44,343
合計 $409,423

 合計約4500万円です。

 

組織

スタッフ9名

ボードメンバ 7名

です。

 

財務

2018年の収入(ドル)

寄付 444354

協賛

115100
支部より 49791
イベント収入 15791
物販 14848
本部管理 7266
合計 647150

合計約7000万円です。

 

参考文献

 The Pediatric Congenital Heart Associationホームページ

2018ImpactReport

https://conqueringchd.org/wp-content/uploads/2019/05/PCHA-Impact-Report-2018-screen.pdf

アメリカの医療組織研究 American Heart Association(アメリカ心臓協会)

アメリカにある先天性心疾患の患者を対象とした組織について調べています。

American Heart Associationです。

 リンク

https://international.heart.org/en

目的

 心血管疾患や脳卒中のない健康的な生活を築くこと

歴史

 1924年6月10日 心臓専門医6人によって設立

2008年 心肺蘇生法に口と口の人工呼吸を行わず心臓マッサージのみが有効であると発表

2009年 家族の喫煙防止とタバコ規制法の成立を支援

2010年 2020年までに心血管疾患と脳卒中による死亡を20%削減しつつ、すべてのアメリカ人の心血管の健康を20%向上させるという主要な目標を発表

資金の使い道

33%
公衆衛生教育


人々が心臓発作や脳卒中の警告サインを識別するのを助けます。
また、心血管疾患や脳卒中のリスクを軽減し、健康的な行動を受け入れるのに役立つリソースを提供しています。
•ウェブサイト、ソーシャルメディア、デジタルリソース
•消費者向け出版物とコールセンター
•健康への取り組み、プログラム、サポート資料
•公共サービスの発表とキャンペーン
•健康フェアとスピーカー局

22%
研究


心臓病や脳卒中の原因、予防、治療に関連する新たな発見を求め、脳の健康を確保するための科学研究に資金を提供しています。

19%
専門的な教育と訓練

 

医療提供者の知識、スキル、判断を改善するための活動、プロジェクト、科学会議、トレーニングコース、プログラムの先頭に立っています。
•ウェブサイト、ソーシャルメディア、デジタルリソース
•専門教育プログラムとイベント
•専門家向けの緊急心血管ケアトレーニン
•科学的なガイドラインと標準の開発
•病院が急性心筋梗塞および脳卒中患者のケアと治療を改善するためのガイドライン

11%
資金調達費用

 

私たちのキャンペーンとイベントのほとんどは、資金調達と米国心臓協会の健康教育活動または使命への財政的支援の組み合わせです。

 

8%
管理費用

American Heart Associationの業務のための一般的な営業費用
•顧客関係管理
ファイナンス
• 人事
•情報技術サービス

7%
地域奉仕


コミュニティが心血管および脳卒中に関連する問題の検出と、コミュニティの健康習慣の計画と改善に集中できるよう支援しています。
•健康と福祉を改善するためにコミュニティの変化を促進する
•CPR / AEDの使用に関する公開トレーニン
•健康の結果を改善するための政策の提唱
•健康診断とカウンセリング

 

組織

3,300万人以上のボランティアとサポーター

3,400人以上の従業員

 

財務(2019年6月期)

収入

$887,420,000=887億円

 

内訳

イベント$331,036,000
寄付$ 189,099,000
遺贈物$ 84,698,000
その他のパブリックサポート$4,933,000
CPRトレーニング収益$ 154,864,000
その他の収益$ 122,790,000

支出

$892,248000=892億円

 

内訳

リサーチ$ 198,322,000
公衆衛生教育$ 295,084,000
プロフェッショナル教育とトレーニング$ 162,936,000
コミュニティサービス$ 63,264,000
管理および一般$ 72,522,000
資金獲得$100,120,000

 

参考文献

American Heart Associationホームページ

American Heart Association Annual Report for 2018 2019

....

 

先天性心疾患患者が成長したときに起こる問題を論文からピックアップ

先天性心疾患患者の成長に伴って様々な問題が起こります。どのような問題が認識されているのか、心理面、社会面、身体面、医療面で論文からピックアップしました。

医療面以外については、対策の可能性についても書いてあります。

 

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成長に伴う患者の課題


まとめ方の方針

症状の個人差も大きいので、問題が起こる可能性も、解決法もそれぞれ異なっていると思います。課題は起こる可能性のあるものをできるだけピックアップする、対策は、知識さえあれば、個人でも実行可能なものを載せるという方針で書いています(効果のエビデンスは不十分なものも含む)。

今回のピックアップに使った参考文献を出典の番号として表に記載しました。

  

まとめの表

 

  課題 出典 患者や家族ができそうな対策(私見
心理面 親依存性が高い 1 自立を促す関係づくり
過保護 1 自立を促す関係づくり
自己評価が低い 1 自己肯定感を高める
社会面 周辺の理解が得られにくい 2 コミュニケーションスキル向上、ノウハウの共有
生命保険に入れない 1 (入れた場合の)情報を共有する
就職が難しい 1 手に職をつける 情報共有
低収入 1 個人に合わせた能力開発
結婚率が低い(男) 1 自己肯定感を高める、自身の体調の理解
身体面 肥満 6 食事・栄養管理・運動療法
運動不足 6 運動管理
医療面 心不全 3  
不整脈 3  
血栓塞栓症 3  
肝線維症 肝硬変 3  
蛋白漏出性胃腸症 3  
内分泌・代謝 3  
心理的疾患 鬱 5 運動療法
     

 

参考文献

1 成人期先天性心疾患患者の社会的自立と問題点 丹羽公一郎他 Journal of cardiology 39(5), 259-266, 2002-05-15 https://ci.nii.ac.jp/naid/10008425123
2 身体障害者手帳を有する成人先天性心疾患患者の社会的自立と心理的側面の関連 落合 亮太, 池田 幸恭, 賀藤 均, 白石 公 日本小児循環器学会雑誌 2012 年 28 巻 5 号 p. 258-265  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspccs/28/5/28_258/_article/-char/ja/
3 フォンタン術後成人患者の管理 稲井 慶(東京女子医科大学循環器小児科) Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(6): 411‒422 (2017) http://jpccs.jp/10.9794/jspccs.33.411/index.html
4 成人期を迎えた先天性心疾患患者の諸問題 白石 公 京都府立医科大学雑誌 / 京都府立医科大学雑誌編集委員会  
5 Respiratory Training Late After Fontan Intervention: Impact on Cardiorespiratory Performance Ait Ali L他 Pediatr Cardiol. 2018 Apr;39(4):695-704. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29349618
6 Promotion of Physical Activity for Children and Adults With Congenital Heart Disease  Patricia E. Longmuir 他 A Scientific Statement From the American Heart Association https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIR.0b013e318293688f