イギリス王立ブロンプトン病院成人先天性心疾患患者へのコロナ情報
今後COVID-19がどのようになっていくか予想がつきません。これまでで日本よりも感染が広がった国で、何が起こったか気になります。それがわかれば、万一、日本で感染拡大になった時の参考になると思います。
イギリスの事例を見てみました。
王立ブロンプトン病院とヘアフィールド病院のホームページに記述がありました。
2020年5月18日更新です。
リンク
まとめ図
ハイリスクな人に対して国家的な対応
ハイリスクな人には、NHS(国営医療サービス)が手紙と電話で連絡をしているそうです。
手紙には以下をするように書かれています。
- 手紙を受け取った日から少なくとも12週間は常に家にいる
- すべての対面の接触や集まりを避けます
- 買い物、レジャー、旅行に出かけない
- 配達された食べ物や薬を手配するときは、ドアに置いておきます。
- 電話、インターネット、ソーシャルメディアなどのリモートテクノロジーを使用して連絡を取り合う。
ブロンプトン病院の状況
- 全通常業務を縮小して、COVID-19患者の診療を行ってきた
- 指示がない限り、病院に来ないで
- 通常の外来診察、心エコー検査、その他の外来検査は、現在停止
- 5月8日時点で、通常診療再開の準備中、今後再スケジュール
- 計画的で緊急ではない診療を延期する決定は、臨床情報確認後、治療に関与する臨床チームによって行われ、通知する
- 成人先天性心疾患患者への必要なサポートはすべて、電子メール、電話、ビデオなどの代替手段によって提供
- デジタル手段で管理できない患者は、王立ブロンプトン病院、ヘアフィールド病院、またはその他のロンドンの専門病院で診察
- 学際的なチームミーティングは緊急のケースに焦点を当てる
- 5月18日以降に、キャンセルされた全事例を確認し、
赤色(絶対優先)
琥珀色(3〜6か月で対応が必要)
緑色(必要に応じてより長く延期しても安全)
に分類する
このレポートが出た時の状況
イギリスの感染による死亡者数を見てみます。
2020年5月18日というのは、赤い矢印の頃です。死亡者のピークが過ぎて少し経ったあたりです。このころに、通常の診療再開の準備が始まっているということになります。
これは、最初の死亡者が出てから2か月半たったころです。これ以降もしばらくの間、診察を受けられない期間が続くことになると思われます。
グラフはイギリス政府の発表を使って作成しました。
Number of coronavirus (COVID-19) cases in the UK - GOV.UK
先天性心疾患患者への情報提供とアドバイス
全体として
- 可能な限り自宅にいるようにしてください
- 外出時は、家族以外の人との接触を最小限に抑えるように
- 先天性心疾患患者の状態は多様で症状が軽い人もいるが、現在、誰が低リスクで誰が高リスク患者なのかは区別できない。(のでみんな気をつけてということ?)
仕事について
- 可能な限り在宅勤務
- 在宅が無理な人は、職場と移動中に社会的距離を保つ必要あり
日常サポートが必要な人へのアドバイス
日常サポートを受けている人に対しての注意点も書かれています。
- 必要な訪問は継続する
- 介助者が感染していないか注意する
- 通常の介助者が体調を崩した時のために、その代理リストを作っておく
- 家に来る人は全員、家に到着したら少なくとも20秒間、石鹸と水で手を洗う
リスクが高い人は?
英国心臓先天性協会によるリストが記載されています。
- 単心室(例:三尖弁または僧帽弁閉鎖症、二重入口左心室)またはフォンタン
- 慢性チアノーゼの患者(安静時酸素飽和度<85%)
- 重症の心筋症または心室の重大な機能障害があり、心不全の治療が必要な患者
- 投薬を必要とする肺高血圧症
- 心臓移植
- 慢性腎臓病または慢性肺疾患などがある先天性心疾患
王立ブロンプトン病院とは?
英国で最大の心臓および肺の専門医センターであり、ヨーロッパ最大の心臓センターです。175年以上の歴史があり、
1956年に心臓の穴を塞ぐ英国で最初の成功した手術
1980年に最初の冠動脈形成術
1983年に最初の「心臓肺」移植
を行ったそうです。
感想
COVID-19で重症化するリスクが高い人には国(正確には国営の医療サービス)から手紙が来るというのは驚きました。
緊急の場合には対応可能かもしれませんが、数か月間持病の診察を受けることが難しくなる可能性があるということは、考えておく必要があると思いました。
アメリカ心臓協会(AHA) ロックダウン下でも運動
少しずつ外での活動が始まっていますが、感染のリスクを考えるとすぐに外に行くのも難しいです。しかし、必要最低限の外出だけでは、運動不足による体力低下も心配です。
アメリカ心臓協会のホームページに、「一緒に運動しよう」として、いろいろなコンテンツがありました。
リンク
内容
見ながら一緒に運動するためのビデオや、ステップバイステップで運動するためのページ、ストリーミングイベントなど色々そろっています。
注意事項として、まずは、「運動について、主治医に相談して、自分に合った運動にしてください」となっています。一例として以下を見てみました。
25 Ways to Get Moving at Home
家で運動する25の方法がかわいい絵つきで描かれています。子供と一緒に家で運動しようということのようです。まとめてみます。(なじみがない動きには例としてリンクを張りました これ以降のビデオはアメリカ心臓協会とは関係ありません)
- 30秒間その場で走る
- 1分間ダンスパーティする
- 10回立って座る
- 風船バレーボール
- Jumping Jacks(ジャンプして脚を広げ手を頭上に ラジオ体操のような動き)
- hokey pokey
- 15秒スクワットでできた数を数える
- 読書しながら空気椅子
- 1分間ヨガ
- 手を頭の上に伸ばしてストレッチ
- カエルジャンプ10回
- 立ってマウンテンクライマー(Standing mountain climbers)
-
- 片足で立って、手を上→横→上→横
- 5回 lunges(足を前に踏み出す運動)
-
- 30秒間その場で走って、心拍数を確認
- 30秒プランク
(絵とこのビデオがあっていません) - 計算問題をやって答えが偶数になったらジャンプ
- 20回足上げ(leg lift)
-
- 30秒間もも上げ(high kees)
-
感想
アメリカ心臓協会として、専門家のみならず、一般患者向けの様々なコンテンツを作成しているのは驚きです。
ただ、個人個人の病状に合わせたカスタマイズはむずかしいので、そこは自分でやってくださいということになります。
家での運動(25 Ways to Get Moving at Home)の中に、文字の綴りを一言ずつ言いながら運動するというのがいくつかありました。日本語だとそのまま同じことをするのは難しいかもしれません。
ご注意
運動のやり方のビデオは心臓協会とは無関係ですので、ご注意ください。
心臓協会のコンテンツは、心臓協会へのリンクからご覧ください。
また運動のやり方は、あくまで例としてご覧ください。それぞれの運動を行うことでの効果は検証されていません。
米国心臓病学会 解説 COVID-19と先天性心疾患 10個の留意点
米国心臓病学会(American College of Cardiology)が
COVID-19 in Congenital Heart Disease: Ten Points to Remember
というレポートを2020年6月4日に公開しています。読んでみました。
リンク
COVID-19 in Congenital Heart Disease: Ten Points to Remember - American College of Cardiology
どんなレポート?
この文書は、「COVID-19:小児と成人の先天性心疾患におけるパンデミックの影響」というレポートの要約です。元のレポート後に分かったことも追記してあります。
元レポートはpdfで29ページあります。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.120.017224
内容まとめ
10 points to rememberなのですが、患者視点から、10個のうちの一部をまとめてみます。
診療について
先天性心疾患患者も重症化リスクが高い可能性がある
以下の人々はリスクが高い可能性あり
- フォンタン手術後の単一心室患者
- 慢性チアノーゼおよび心室機能低下の患者
- 重度の肺高血圧症の患者
- 免疫不全患者(心臓移植を受けた患者を含む)
- 未治療の重大な先天性心疾患の乳児
- 先天性心疾患のある成人冠動脈疾患または全身性高血圧患者
すべての心臓の薬は、明確な禁忌が生じない限り、コロナ疾患の間継続を推奨
例:
など(薬名はわかりやすさのため参考として書きました 本文には書いてありません)
病院の訪問が延期または制限されるため、医療者は治療計画を見直し、これらの患者の治療へのアクセスが遅れた場合の意図しない結果を考慮する必要がある
コロナ疾患の対応状況、研究について
- COVID-19に関する治療法や知識はまだまだ発展途上
- 先天性心疾患患者のコロナの影響、治療に対する反応、およびウイルス接触直後の予防の有効性を評価するために、いくつかの試験が進行中
- 巨大な冠状動脈瘤の発生を含む重度の川崎病とのコロナ症状との類似点がわかってきた
感想
まだ、公開されているものは少ないですが、コロナと先天性心疾患の関係の研究も進んでいるようです。
診察間隔が長くなったり、電話などでの診察になったりしていることで起こる問題点も気になっています。
コロナウイルスへの感染と先天性心疾患(イタリアの論文) 深刻な人はいないがまだデータが少ない
コロナウイルスへの感染で先天性心疾患の人はどうなるのか気になります。
2020年6月8日にイタリアの事例が論文化されています。
論文
COVID-19 and Congenital Heart Disease: Results from a Nationwide Survey
Jolanda Sabatino 他著
Journal of clinical medicine 2020 Jun08 Vol. 9 issue(6)
リンク
COVID-19 and Congenital Heart Disease: Results from a Nationwide Survey
まとめ
この研究以前には、先天性心疾患のCOVID-19患者について公開された研究はなかったと書かれています。
イタリアの8病院の集計をしています。
2020年2月21日から4月4日までで、子供4人と大人72人です。
このうち9人だけがウイルス感染が確認されていて、ほかの67人はWHOの基準で感染者と判定された人です。
全員すでに退院していて、死亡者はいません。
先天性心疾患患者は、コロナウイルスに感染する割合も少なく、症状も軽いとの結果です。この理由は、先天性心疾患患者は
- 感染しないように気を付けている(ウイルスに会わないようにしている)
- 重症化しやすい高齢者、肥満、高血圧、糖尿病などの人の割合がとても少ない
などが考えられるそうです。
ただ、まだデータ数が少ないので、今後のさらなる研究が必要です。
感想
重症化した例が少ないということはよいことだと思います。
ただし、データ数が少ないため、まだ結論は出せません。
今後も注意が必要だと思います。
注意点
元論文にグラフと文字での説明で数値が違っているところがありました。
フォンタンを機械で補助する
フォンタンでは、循環に右室の助けがありません。これを何とか補助できれば、通常の心臓に近付くのではないかという夢があります。これについて、論文を読んでみました。
現時点では、まだ基礎研究段階で、沢山あるアイディアのうちの一つです。
論文
University of Michigan Medical Schoolの論文です。
Mechanical Circulatory Support for the Failing Fontan: Conversion to Assisted Single Ventricle Circulation—Preliminary Observations
Syed M. Peer, 他
World Journal for Pediatric and Congenital Heart Surgery
Vol 9, Issue 1, 2018
リンク
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2150135117733968
内容
目的と手段
フォンタン循環に問題が起こった時に、補助装置をつけて対応する方法の基礎検討です。
4頭の豚を人為的に単心室状態にしたのち、機械的補助をつけて検証をしています。
フォンタンの機械循環補助研究のこれまで
フォンタン循環の機械的循環サポートは、依然として困難なままと書かれています。
過去のよくある手法としては、大まかに言って下の図の星印の位置に補助ポンプをつけるというものだそうです(静脈と肺動脈が合わさる近辺)。これはうまくいっていないという認識の下で、この研究を行っています。
やったこと
この研究では、上図の位置に循環を補助する装置をつけています。
フォンタンをもとに戻して、心臓の中で酸素の少ない血と多い血が混ざる状態にします。そこで左心房からポンプに血液を取り込み、肺動脈と体動脈両方に血液を送ります。右室から出てくる血管はふさぎますが、左室から出てくる血管はふさぎません。
体循環は、左心室から自力で送り出す血液と、ポンプからの血液両方が流れていきます。肺循環はポンプからの血液のみです。
本研究では心室中隔には穴が開いていません。また、右心房と右心室の間にある弁を除去しています。右心室には出口がないので、血液は流れていきません。
図の青い矢印のように心房中隔の穴から血液が右から左に流れていきます。
なぜこうするのか
- フォンタン循環の停止で、静脈系の圧力を下げることができる
- フォンタン循環の動物はいないので、フォンタンを残した状態の動物実験ができない
- 既存のポンプが左室用で右室に使うには強すぎる
- 右室用の低圧で大流量のポンプが難しい
結果
豚4匹を手術してから2時間補助ポンプを使って生かすことができました。
肺循環と体循環の割合を変えて、肺動脈圧が上昇しないか調べています。
静脈圧が適正値にあることを確認しました。
血液が混ざって問題ないのか?
「静脈の鬱血を緩和し心拍出量を増加させることにより、軽度の動脈酸素不足の悪影響を相殺できる」との主張です。
開窓フォンタンの場合はSpO2が85%程度の人もいて、臨床的には問題ない。また、ポンプを付けたら抗凝固療法になるので、低酸素でも凝固しにくいと記載されています。
感想
タイトルにもあるように、まだ研究初期の検討だと思います。
フォンタン循環をもとに戻して、高酸素と低酸素の血液を混ぜるという点に驚きました。素人考えで、以前、開窓フォンタンでも、「せっかく分けたのに、また混ぜるのか」と思ったことを思い出しました。しかし、よく考えてみると、機械補助がある場合とない場合では、条件が違っているので、答えが変わってもおかしくありません。
この研究のように、幅広い候補から最適な方法を見つけていくことが必要だと思います。
それから、フォンタン循環の動物はいないということで、直接的に動物実験ができないという問題があることも、想像していませんでした。いわれてみれば、様々な場所が長期にわたって変化した場合に、それを模擬することは難しいですね。
おそらく、この研究の範囲からはずれますが、心室中隔欠損があった場合に、血液の流れがどうなるのか気になります。
TCPCフォンタン実施後の傾向(福岡こども病院)
European Journal of Cardio-Thoracic Surgeryに福岡こども病院のTCPCフォンタン実施後500人の状態についての論文がありました。2015年の発表です。
TCPCの初期から中期の結果を評価することを目的とした論文です。
論文
Toshihide Nakano 他
Results of extracardiac conduit total cavopulmonary connection in 500 patients
European Journal of Cardio-Thoracic Surgery,
Volume 48, Issue 6, December 2015, Pages 825–832
リンク
https://academic.oup.com/ejcts/article/48/6/825/2465055
まとめ
この論文は、1994年3月から2014年3月までの間に、福岡こども病院でTCPCフォンタンを受けた500人の患者の分析報告です。
そのほかの情報
福岡こども病院では、1990年代半ば以降、EC-TCPC法を使っているそうです。
また、術後のカテーテル検査を
- フォンタン完了の6か月後
- 6歳(小学校に入る前)
- 12歳(中学校に入る前)
- 18歳(成人の先天性チームに編入する前)
に実施する原則(実施判断は専門医)にしているそうです。
そして、以下について重要視しているようです。
感想
術後およそ15年と若い人が多いので、長期的な問題の発生は少なめの印象です。それでも、肝臓異常の兆候を示している人が多いのが気になりました。
先天性心疾患のこれまでと次の10年
先天性心疾患の次の10年について、AHA circulationの論文(2016年)をよみました。 Boston Children’s Hospitalの論文です。
Trends in Congenital Heart Disease The Next Decade
Circulation. 2016;133:2716–2733
全体像としてまとめてみます。
リンク
これまでの発展
1953年に初めて心肺バイパスを使用した先天性心臓欠損の修復を行ってから60年だそうです。まったく助けることができなかったところから、助けるための医療技術が発展してきました。
様々な手術法や、状態を観測するためのイメージング技術、移植、不整脈の治療、心臓カテーテル技術、集中治療管理技術などです。
多くの人の力でこの進歩が実現し、多数の人が成人し生活できるようになったのだと思います。
これからの10年
これからの10年で注目する進化は、
- 新しい技術として再生医療、遺伝情報利用
- データの集積と活用による発展の促進
- 子供から終末期までの生涯にわたるケアを個人個人に合わせて設計していく技術
- 神経発達の問題や、手術の傷などによる心筋症、肝臓をはじめとする他の内臓の影響、メンタルヘルスなどの現在起こっている問題の解決
- 患者同士のつながりによる新しいケアの実現
- 最新医療が世界中で受けられるようになること
などが期待されているそうです。
様々な新技術の実現もさることながら、これまでよりも全体的包括的に医療を設計し、問題が起こってから対応するのではなく、予防をして、問題が起こらないようにするというのがポイントです。
感想
究極的には再生医療によって、心臓などを入れ替えることで、すべての問題が解決するのが夢だと思います。
それ以外では、個人個人にとって、最適な治療や、生活、運動などのプランを作成し、健康やよい生活を維持できる方法が確立してくれればうれしいです。