複雑な成人先天性心疾患者は、ふくらはぎの運動をした後の酸素量の回復が遅い
先天性心疾患の運動への影響を調べています。
ふくらはぎの運動をして、ふくらはぎの血中酸素を計測すると、一般に比べて複雑な成人先天性心疾患者は、酸素量の消費と回復が遅いとの研究がありました。
スウェーデンの研究です。
論文情報
Patients with complex congenital heart disease have slower calf muscle oxygenation during exercise
Camilla Sandberg他著
International Journal of Cardiology Congenital Heart Disease Volume 4, 2021
リンク
まとめ
複雑な先天性心疾患(35.6±14.3歳、女性22人 、52 人)の成人74人と一般74人を比較
フォンタン、大血管転移、ファロー四徴症の人
かかと上げ運動(1分に30回、できなくなるまで継続)時の筋肉血中酸素を計測
先天性心疾患者は運動開始時の変化(消費)と運動終了時の変化(回復)が遅い
この分析結果は運動トレーニングメニューの設計に有益かもしれない
上のグラフは、説明のためのグラフで厳密ではないことにご注意ください
感想
まだ研究結果が少ないために、結果が定まってない点もあるようです。
なぜ運動能力が低くなっているかの分析によって、それを回復する手段が見つかれば、うれしいと思います。
まだその提案はされていませんが、次につなげてほしいと思いました。
先天性心疾患児の神経発達と改善 AHA 科学的声明
先天性心疾患の知能面発達の問題と改善が気になります。
アメリカ心臓協会(AHA)のScientific Statement(2012)があり、読んでみました。
論文情報
Neurodevelopmental Outcomes in Children With Congenital Heart Disease: Evaluation and Management
(先天性心疾患を持つ子供の神経発達の結果: 評価と管理 )
A Scientific Statement From the American Heart Association (2012)
リンク
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0b013e318265ee8a
まとめ
1966 年から 2011 年までの MEDLINE および Google Scholar データベース検索に基づいてまとめた文書
先天性心疾患者の神経発達問題のメカニズムは、弱点部の正確な予測が出来るレベルまで理解されていない
年齢に応じて見えてくる問題が変わるので、継続的な再評価が重要
家族、教育専門家、医療者の協力が必要
疾患の種類ごとの傾向の報告事例
(注: 文章中から抜粋したため、表現がそろっていません)
心房、心室中隔欠損症の閉鎖、動脈スイッチ手術、肺動脈狭窄のバルーン拡張弁形成術をうけた人
行動および感情の問題
フォンタン手術(10 歳から 18 歳)
行動、精神的健康、自尊心に問題がある
大血管転移、ファロー四徴症、心房中隔欠損症の手術を受けた 7 ~ 14 歳
学業成績と総合的な能力が低下、引きこもり、社会的、行動上の問題
大血管転移、ファロー四徴症
注意機能障害のリスクが高
複雑な先天性心疾患児の平均スコアが一般者より低い領域
- 細かい運動能力
- 全身の運動能力
- 視覚と知覚
- 注意力
- 実行機能
感想
心疾患ごとに発生しやすい問題がわかってきている様です。
これまでは、心疾患者に特化した発達の検査や、トレーニングの支援は受けたことがありません。
今後は、わかってきた知見に基づいた支援体制によって、問題に早く対応し発達を手助けする仕組みによって、それぞれのQoLがあがっていく体制ができて欲しいと思います。
内容が多岐にわたっているので、うまくまとめきれていません。
検査方法や、遺伝子の話も記載されていますが、ここでは割愛しました。
先天性心疾患がアイデンティティと人生経験に与える影響
先天性心疾患の心身に対する影響について興味があります。
成人先天性心疾患者のアイデンティティと人生経験に対する影響について調べた論文がありました。
論文情報
It's part of who I am: The impact of congenital heart disease on adult identity and life experience
(成人のアイデンティティと社会経験に対する先天性心疾患の影響)
Jill M.Steinera(アメリカワシントン州立大学)他著
International Journal of Cardiology Congenital Heart Disease Volume 4 (2021)
リンク
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666668521000707
まとめ
25人(平均年齢38歳)に口頭で聞き取り調査 (平均17分)
話題
1)「正常」の認識、自尊心、動機付けなど、アイデンティティへの疾患の影響
2)感情的な苦痛の原因
3)キャリアや人間関係など、成人の意思決定への影響
感想
25人への短時間での聞き取り結果をまとめたものなので、色々な考えを網羅しているわけではなさそうです。
それでも、成人先天性心疾患者が日々どのような経験をしているのか参考になります。
2000–2020で最も引用された100の論文
研究の影響力を調べるために、他の研究者の論文で引用された数をみることがあります。先天性心疾患の最も影響力のある論文についての研究がありました。
論文情報
The 100 most influential articles in congenital heart disease in 2000–2020: A bibliometric analysis
Jef Van den Eyndeab他著
International Journal of Cardiology Congenital Heart Disease
Volume 4, 2021
リンク
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S266666852100080X
まとめ
2000年から2020年までで引用数が多い論文を調査
独自の臨床的な記述の論文のみ(解説、ガイドライン、メタアナリシス等は除外)
主要な研究分野
ファロー四徴症、心房中隔欠損症、周産期、フォンタン、心臓外科
引用数の多い論文Top5(2000-2020)
- 心臓手術後の急性腎障害のバイオマーカーとしてのNGAL
- ファロー四徴症の修復後の不整脈と心臓突然死の危険因子
- 一般集団における先天性心疾患:有病率と年齢分布の変化
- 先天性心疾患の手術のリスク調整のためのコンセンサスベースの方法。
- 小児と成人の二次心房中隔欠損症の経カテーテルと外科的閉鎖との比較
2018年から2020年に限定したTop5
- 動脈管開存症の1週齢における治療の探索的ランダム化比較試験
- ディープラーニングを使用した時空間アーチファクト抑制を備えたリアルタイムの心臓血管MR-先天性心疾患の概念実証
- 小児心臓手術後の術後開胸痛の管理
- 成人の先天性心疾患の予後を推定し、治療を導く機械学習アルゴリズム
- 全エクソームシーケンシング ファロー四徴症の遺伝的寄与
感想
最近の論文に計算科学との組み合わせが出てきているのは、今の流行を反映しているように思います。
逆に2000年から2020年までで引用回数が多い論文は、2000年代初期ごろの論文が多いため、少し研究テーマが古く感じます。
様々な分野で研究が加速して、より良い治療につながってほしいです。
引用とは
論文の中で過去の論文を参考文献として記述します。他の論文から参考にされた数を数えたデータが公開されています。他の人から参考にされる論文ということは、それだけ影響力がある論文とも言えます。
しかし、これが全てではありません。
参考にされる回数が少ない論文でも、重要な論文はあります。
例えば、論文を書きやすい分野の論文の方が参考回数が増えると思います。
フォンタンの運動のシステマティックレビュー2020
先天性心疾患の健康維持、長期的な改善に興味があります。
フォンタン患者の運動の効果と弊害について、16の研究をまとめて分析した論文を読みました。
論文情報
Physical exercise training in patients with a Fontan circulation: A systematic review
Linda E Scheffers 他著
European Journal of Preventive Cardiology
Online First (速報電子版)
リンク
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2047487320942869
まとめ
調査の動機
以下の疑問をもとに調査
調査結果
2020年2月19日に過去論文の調査実施
殆どのトレーニングが12週間
全ての研究が運動トレーニングはフォンタン者にとって安全と結論
- しかし、殆どの研究が体調がよくない人を研究に含めていない。
- あらゆるフォンタン者にとって、運動が効果があり、リスクがないと言い切れる十分な研究が行われているわけではない
今回の研究に基づくと、下肢に焦点を当てた筋トレが最も有望であるように思われる
(この点に関する詳しい説明は見当たりません)
課題
多くの研究がトレーニング内容の詳細説明がないため再現できない
感想
フォンタン者のうち活動量が多い人は肝機能が悪いという埼玉医大の発表(AHA 2017年)がありましたが、このレビューには含まれていません。
埼玉医大の論文が、トレーニングを実施した結果についてではないためであることと、この論文の選択基準が、学会発表だけで論文化していない研究は除外しているためと思われます。
その結果、この論文で検討したすべての研究が「運動の弊害がないと結論付けている」となっています。また、トレーニング前後の肝機能のデータを分析している論文の記述はありません。
実験方法の微妙な違いで知見が反映されていないとすると、残念に思いました。
fontanと脂肪肝 アメリカ(Cincinnati Children's Hospital)の論文
先天性心疾患の長期的な変化を調べています。
フォンタン者と脂肪肝についてのCincinnati Children's Hospitalの論文がありました。
論文情報
Hepatic Steatosis in Patients With Single Ventricle and a Fontan Circulation
David A. Katz他著
Journal of the American Heart Association.
Vol 10, Issue 9 (May 4, 2021)
リンク
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.120.019942
まとめ
感想
脂肪肝の要因は一般の人と変わらないということで、フォンタンのリスクについて明らかにされていません。
ただし、研究結果に、脂肪肝になった被験者が少ないということや、年齢が若いことの影響はありそうです。
心臓外導管フォンタンの合併症 福岡の論文
心外導管フォンタンの長期リスクについて、福岡市立こども病院と九大病院からの報告論文がありました。2015年の報告のまとめを以前やりました。そのリンクも張っています。
論文情報
The complication of Fontan procedure using extracardiac conduit
Yoshihiko Kodama(Fukuoka Children's Hospital)他著
International Journal of Cardiology Congenital Heart Disease Volume 4 (2021)
リンク
The complication of Fontan procedure using extracardiac conduit
まとめ
心外導管法の患者の調査が目的
フォンタン手術を受けた全患者について、遡及的カルテレビューを実施
平均観測期間は9.0±6.1年
通常、小児期は福岡市立こども病院で管理され、青年期に九州大学の成人先天性心疾患部に転院する
2015年の論文のまとめ
福岡市立こども病院から2015年にも論文が出ています。以下でまとめています。
感想
徐脈性不整脈とフォンタン不全の関係があるということを知りました。
また開窓と徐脈性不整脈の関係も気になります。
2015年の報告に比べると、死亡者割合は変わっていないようです。
おそらく、今回の報告の対象者に2015年の報告の対象者も含まれていると思います